今回の調査にご協力くださいましたTwitter民の皆さまに深く感謝いたします。っ☆←ふぁぼ
本稿では施錠する意の動詞「カ]ウ」の分布を例として、Twitterを利用した簡便な方言調査法を提唱するものである(キリッ
ある晩國語學の大學院生中村(長野縣諏訪郡出身二十二歳)は夜晩くまで研究室に一人殘り、研究活動にいそしんでゐると見せかけてツイッターに入りびたつてゐた。もう教授も事務員さんも歸つてしまつたので、研究室に施錠するためには警備員さんに頼まないといけない。
……といふことがあり、先輩や同級生や後輩に施錠することを「カウ」と言ふか訊いてみるも、「聞いたこともない」「聞いたことはある」「方言調査をしてゐて聞いたことがある」とのこと。
日本全國どこでも通じると思つてゐた中村大ショック。といふわけで調べてみることにしたのサ。
「鍵をかふ」は一般的な辭書にも載つてゐる。
- か・う[かふ] 1 【▽支う】
- (動ワ五[ハ四])
- 〔補説〕 「交(か)う」と同源
- [1]棒などをあてがってささえとする。
つっかい棒を―・う
- [2]鍵(かぎ)や閂(かんぬき)などをかけて扉が開かないようにする。
鍵を―・う
- 〔可能〕 かえる
(『大辞林』)
日本最大の方言辭書『現代日本語方言大辭典』には「施錠する」の項目がない。「鍵」の項の長野に「―オカ]ウ」の例文があるのみ。また「かける」の項の長野に「カ]ウ」を「ボタンをかける」の意でも使ふことが書かれてゐる。
しかしその分布はこれでは明らかにならない。
【拡散希望】アンケートです。施錠することをなんと言いますか? 「鍵を○○」の○○に入る言葉を、出身地とともにお教えください。
と、呟いた。
「鍵を」の形式で訊いたことは「戸」「ジョッピン」などの方言を排除してしまつた點で誤りであつた。
また、出身地の他に生育地をも訊いたはうがよかつたかもしれないが、質問が煩雜になることを避けた。また、元々出身地のみを尋ねたため、生育地の情報が寄せられた場合にも集計には出身地のみを使用。
有効回答は三三件。
寄せられた回答はこんな感じ: 中村明裕(@nkmr_aki)/2012年01月01日 - favolog 中村明裕(@nkmr_aki)/2012年01月02日 - favolog
表にするとこんな感じ。表記は片假名で統一: lock.xls
前述のとほり集計には出身地のみを使用。
この他にも「トオ・タテル」「ジョッピン・カル」「サンカゲル」などの形も寄せられた。また、終止形は「カケル」だがタ形は「カッタ」であるといふ情報も寄せられた。
縣ごとにして日本地圖にするとこんな感じ:
縣ごとつていふのがちよつと大雑把だし、澤山回答があつた縣も一件しかない縣も一緒くたにしてゐてあれだけど。
そして「カウ」を使用するといふ回答があつた縣となかつた縣とに分けてみる:
「カウ」は東海東山方言を中心に分布してゐるのがわかる(あ、ちなみに東海東山方言つてこれね↓)
また、東海東山方言から離れた北奧羽方言や雲伯方言(地圖では島根縣全域に色がついてゐるが、情報提供者は隱岐出身である)にも見られることはこの方言が特段新しいものではないことを示唆するか。
Twitterを利用した方言調査に可能性があることは前回の調査(Twitter蝸牛考)で大いに感じられたことであつたが、今回の調査によつてより強く確信した。
Twitterはその性質上、若年層が多いことなど情報に偏りがある。また多くのフォロワーを抱へるツイッタラーでないかぎり、全國を網羅するやうな情報量を得ることも易しくない。しかし、これらの問題を抱へつつも、Twitterを利用しての方言調査はその極めて高い簡便さ、迅速さがある。さらに今回の調査で一定の質の情報が得られることが確認できた。精密な方言調査の前段階の豫備調査や、精密な方言調査をするほどではない場合の調査などにおいて、Twitterを用ゐての方言調査はかなり有效であると考へる。
オチ? ないよw