終助詞「ナ」の音調についてのメモ

この記事の著想元:
zeeksphere(@zeeksphere)/2012年02月12日 - Twilog

一・「ナ」の音調

終止形につく終助詞「ナ」には全く異る二つの意味がある。一つはA.詠嘆(あるいは念押し)であり、一つはB.禁止である。

これにいま斷定(すなはち下降イントネーション)と疑問(すなはち上昇イントネーション)とを加へると以下の四つになる。

この四つを録音したのが以下である。

これを聞くとAとA'にはほとんど聽覺印象上の差異がないのに對して、A(およびA')、B、B'は聽覺印象上全く異つた印象を與へる。

Praatを使つてこれのピッチを畫像にしたのが以下である(左からA、A'、B、B')。

これを見ると、やはりAとA'はほとんど同じ形を描いてゐるのがわかる。いづれも上昇調である。一方A(およびA')、B、B'は波形が全く異る。しかしながら、BおよびB'は、下降調の部分がある點で一致してゐる。BとB'の差は、Bが下降するのみで終つてゐるのに對し、B'はその後で上昇してゐるといふ點である。

ここから、詠嘆の「な」は上昇調、禁止の「な」は下降調といふ特徴を抽出することができる。下降調のものはその後に上昇を伴へるが、上昇調のものはその後に更なる上昇を伴ふことはできない。

これに加へて、上昇調のA.「行くな」に更に下降の調子を加へることもできる(録音した後、これを書いてゐて氣づいた)。すると「な」の詠嘆の意味合はますます濃くなり、念押しの意味合が薄くなる。

二・終助詞の音調の二種

おそらく日本語の終助詞の音調は以下の四種である。

しかしIa.とIb.、IIa.とIIb.は語としては同じであり、次に上昇または下降のイントネーションを伴ふか伴はないかの違ひであるから、結局以下の二種類に落ち著くわけである。

三・これは聲調である

さて、それではこの音調はイントネーションなのか、アクセントなのか。筆者の考へでは、いづれでもない。これは聲調(tone)である。斎藤(二〇一〇)によれば、

目立つところは単語の中の「どこか」というのがアクセント(accent)、用意されているパターンのうち使うのは「どれか」というのが声調(tone)である。(二九ページ)

日本語の終助詞の音調は先に述べたI.かII.の「どれか」から一つが選擇されるのであるから、これは聲調(tone)なのである。

この終助詞の聲調は、アクセントに準ずるものとして辭書に記述がほしいものである。

參考文獻