言語学SF掌編二品

1. オーストロネシア語族の真実

世界中に広く分布している語族と言えばまずインドヨーロッパ語族が思い浮かぶが、実は南北アメリカなど、近代以降にヨーロッパの言語が広まった地域が多い。

近代以前に世界で最も広く分布していたのは、オーストロネシア語族であった。オーストロネシア語族は、北は台湾やハワイ、南はニュージーランド、西はアフリカのマダガスカル島、東は南米のイースター島まで分布している。

そして実は、日本語もオーストロネシア語族の一派なのである。オーストロネシア語族の多くは母音で終わる開音節の言語である。日本語も開音節の言語である。

オーストロネシア語族はなぜこんなに広い範囲に分布しているのか? それは、オーストロネシア祖語を話していた人々・オーストロネシア族は、有史以前に高度な文明を持っていたからなのである。


さて、オーストロネシア語族が分布する西端・マダガスカル島には、こんな伝説がある。「マダガスカル島は左足の形をしている。神が地球を作るとき、左足を置いたのがマダガスカル島なのである」。

一見なんの変哲もない神話である。しかしよく考えてもらいたい。おかしくはないだろうか? たしかにマダガスカル島は左足としか言えないような形をしている。だがしかし、なぜ古代マダガスカル島の人々はマダガスカル島がそんな形をしていることを知っているのだろうか?

考えてみると、「神が地球を作るときに左足を置いた」というのもおかしく思えてくる。彼らはなぜ「地球」という存在を知っていたのだろうか? 他の地域の神話を考えれば、古代の人々にとっては、海はどこまでも続いているものであり、島や大陸はそこに浮かんでいるもののはずだ。

マダガスカル島
マダガスカル島


ところで、日本では古く、日本列島のことを「秋津島(あきつしま)」と呼んでいた。「あきつ」とは古代の日本語でトンボのことである。日本列島がトンボのように細長いところからついた名前である。

これも不思議なことである。なぜ古代の日本人は日本列島がトンボのように細長いことを知っていたのだろうか? たしかに日本列島は細長い。しかし、古代の日本地図「行基図」の日本は現実の日本と較べるとずんぐりむっくりで、トンボらしくはない。

行基図と衛星写真の日本
行基図と衛星写真の日本


にもかかわらず「行基図」以前の古代日本人は、なぜ日本が細長いことを知っていたのだろうか? なぜ古代マダガスカル人は、マダガスカル島が左足の形をしていること、そして「地球」という概念を知っていたのだろうか?

――考えられる答えは一つ。彼らは飛行機で空を飛んでいたのである。それもライト兄弟の時代のような高さしか飛べない飛行機ではなく、マダカスカルや日本の全景を見ることができるような高さまで飛ぶことのできる飛行機である。

日本に伝わる、鳥のように空を飛ぶ石でできた船の神、「鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)」は、この飛行機が伝説化されたものなのである。

そう考えれば、オーストロネシア語族がこれだけ広く分布していることも説明がつく。オーストロネシア祖語を話していた人々・オーストロネシア族は、飛行機で空を飛んで全世界に移り住んだのである。

2. センチネル語の真実

A「センチネル語って知ってるかい」

B「ああ、あの他民族との接触を拒絶している北センチネル島の言語かい。それがどうしたんだい」

A「実はね、来年センチネル語の文法書が出るんだ」

B「えっ、冗談だろう? 誰かドローンでも飛ばしたのかい」

A「ところがどっこい、紀元前4世紀の古典センチネル語から現代センチネル語まで100年刻みの25巻本、一巻あたり約1000ページの大作だ」

B「ハハハ、そんなバカな。紀元前4世紀のセンチネル語がなんでわかるんだい」

A「わかるのさ。センチネル族はそのために作られた民族、センチネル語はそのために作られた言語なのだからね」

B「なにっ?」

A「パーニニという言語学者を知っているね」

B「古代インドの言語学者だろう? 彼がどうしたんだ?」

A「紀元前4世紀、パーニニはサンスクリット語の形態論の共時的記述を完成させた。そののち彼は彼は外界の影響がないときに言語がいかに変化するのかに興味を持った。そして彼は妻と子どもたちを連れ、言語変化の壮大な実験を試みたのだ」

B「じ、実験?」

A「彼は外界から隔絶された土地を求めて放浪し、ついにアンダマン諸島の北センチネル島に辿り着いた。そこで彼は内省に基づき、初めに彼の母語を記述した。それが最初のセンチネル語だ」

B「パーニニの母語がセンチネル語? 君は一体なにを言っているんだ……?」

A「パーニニは子どもたちに言った。外界との接触を持たないこと。もし侵入者があれば殺してでも排除すること。100年に一度、パーニニの直系の子孫が自分の言語の内省を詳しく記すこと。そして25巻目ができたら、この25巻の書物を持ってインドに戻り、その研究成果を発表すること。……しかしこの壮大な実験は、少々他民族の血を吸い過ぎたようだ……。殊にこの百年ほど、迷惑なことに、外界では海上交通が発展しすぎた。我々は人を殺しすぎた」

B「な……なにを……ま、まさかお前……!」

A「そう、実は私こそがパーニニの直系の子孫、パーニニ81世なのだ! 我々パーニニ一族の秘密を知られたからには生かしてはおけない!」

チャキッ

B「ちょ、ちょっと待て……っていうかならなんで教えた!」

バキューン

(終わり)