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続・海賊裁判傍聴記

はじめに

この記事は前作海賊裁判傍聴記の続編である(前回に比べると少々コンパクトにまとめることにした)。

この裁判である:

主な登場人物

少年B(被告人)
本記事の主人公。現在公判中。
アブデヌール・フセイン・アリ
マハムッド・ウルグス・アデッセイ
海賊。以上2人とも懲役10年の判決を受けた。
少年A
海賊4人の中でのリーダー。懲役5~9年の不定期刑判決を受けた。
裁判長
大野勝則氏。
裁判官
2人。
弁護人
3人。
検察官
5人。
通訳士
2人。1人は日本人女性(日⇔英)、1人は黒人男性(英⇔ソマリ)。
証人
海上保安官。
中村
筆者。ただの野次馬。

裁判所へ

海賊裁判が東京地裁で行われることを前日に知り、中村は東京地裁へ向かった。被告人の少年B(いちおう伏せる)は犯行当時未成年であったはずだが、堂々と被告人名が裁判所の掲示板に張り出されていた。そもそも家裁ではなかったのか(中村には法律がわからぬ。中村は、一介の院生である。言語学を学び、辞書と遊んで暮して来た)。

なにはともあれ傍聴券の抽選――定員割れで、来ていた全員に配布された。熱しやすく冷めやすい日本人、海賊熱も冷めたのだろうか。中村は前回の反省を生かして証言台のすぐ後ろの席を陣取った。開廷の5分ほど前に入廷した少年Bは、やはり前回の2人に比べると随分若かった。

開廷

10:00、開廷。裁判長が被告人の身元を問う。被告人は答える。少年B。1991年12月21日生まれ。国はソマリア。日本の住所はない。職業はかつて遊牧民、のち漁師。

否認!

検察官が起訴状を早口で朗読する。およそ報道されているとおりの――そして他の3人の海賊が認めた――事実を検察官は読み上げた。そののち通訳士(男性)がソマリ語で起訴状を朗読する。

裁判長は黙秘権について説明した後、問う。「先ほど検察官の読みあげたものについて問います。その通りですか」。

被告人は答える。「そのようなことはおこなっていません! 裁判員のみなさんにお願いします。証拠をよくよく吟味して、どうか慎重に審理してください!」

弁護人が続ける。「少年Bは無実です! この事件は日本で審理すべきでもありません。ソマリアの事件です。日本には日本語とソマリ語の両方を正確に話せる人はいません。したがって彼は自分に有利な証拠を集めることも、伝えたいことを伝えることもできないのです。よって公訴棄却を求めます!

検察官冒頭陳述

検察官は冒頭陳述で、「彼らは海賊といっても、童話やアニメに出てくる海賊とは違います。自動小銃で武装した現代の海賊なのです」と前置きをしてから、レジュメ(このレジュメは傍聴人は見ることができない)に従っておよそ次のようなことを述べた:

そして次の4つのことが重要であると言った:

休憩

10:50、休憩。

トイレで通訳の男性に出くわした。「Is ka warran.」とでも話しかけてみようかと思ったが人見知った。

11:15、再開。

弁護人冒頭陳述

弁護人は、検察官とは打って変わって――およそ自分自身も自分が言っていることを本気で信じてはいないのではないかと思わせるような――芝居がかった調子で、滔々と次のように語った:

「ソマリアは元々、平和で豊かな国でした。それを西欧列強が植民地支配し、5つの地域に分断してしまったのです。それらは独立、統合しましたが、20年前、無政府状態に陥りました。人々は貧困にあえぎ、若者は教育を受けられません。政府がなければ海を守る者もおりません。外国の船は勝手にソマリアに入り、マグロなどの海産物を奪いました。魚を奪われた漁師は更に貧しくなります。そして先進国は産業廃棄物を捨てます。それには放射能が含まれており、これによって多くの人が死にました。ソマリアの人々にとっては、勝手にソマリアに侵入し、ソマリア人の権利を不当に蹂躙する彼らこそが本当の海賊なのです! ソマリアの人々は武器を持って戦いはじめました。そしていつしか身代金のビジネスを始め、若者がそれに利用されるようになります。旱魃でも多くの人が死にました。この事件はそこで起きたのです。」

「少年Bは内陸部の貧しい民でした。生まれたときにはすでに政府はありませんでした。兄、弟、妹がいますが、本当はこのほかに4人、兄弟がいるはずでした。みな貧困により病死したのです。彼の父も彼が5歳のときに亡くなりました。彼の母は女手一つで彼らを育てました。教育も受けられず、読み書きもできない彼は、ヤギやヒツジを飼って家計を支えていました。」

「彼はいまなぜここにいるのでしょう――。少年Bは、実は海賊からオマーンの船を守る仕事をしていたのです!」 小銃を支給され、行きはオマーンの船に乗り、帰りは自分のボートでソマリアに帰るつもりだったのです。そのため、昇り降りのための梯子を持っていたのです。船をオマーンに送り届けソマリアに帰る途中、エンジントラブルで自力でソマリアに帰ることができなくなりました。6日間の漂流の末、グアナバラ号を見つけました。残りわずかなガソリンで彼らはグアナバラ号を追いかけました。発砲は助けを求めるためです。しかし船員は彼らを海賊と誤認しました。彼らは銃を捨てたら弁償せねばならないと思って、持ったままグアナバラ号へ乗り込んだのです。」

「日本は言葉も法律も文化も違います。日本には日本語とソマリ語の両方を正確に話せる人もおらず、大使館もありません。彼は証拠を集めることができません。グアナバラ号は日本籍ではありません。船員にも日本人はいません。日本で裁判をしているのは政治的な理由です。そのために少年Bは日本で2年も拘束されているのです!」

「検察官の呼んだ証人が事実を語るか、全てが語られるか、よく見極めてください。日本にはソマリアに関する情報がとても乏しいです。本当にソマリアに知識のある人の話を聞いてください。我々は今後、米国のソマリ人、アブディー・サマタ教授を証人として招きます。また、すでに有罪となった3人も証人として呼ばれるでしょうが、彼らが本当に事実を言っているか、彼らの主張は一貫しているか、確かめてください。どうか裁判員一人一人が、公正に判断してください。」

11時半ごろ、休廷。

昼休み

エレベーターの中で通訳の方々と一緒になった。2人はなにやら日本語で話をしていた。

地下1階へ行ってみると、食堂あり喫茶店ありファミマあり郵便局あり本屋(ただし、法律書のみ)ありと、さながら小さな街であった。NDLだとか裁判所だとか、公の施設は案外サービス旺盛である。租税を搾り取られているのだから、利用し尽くさなければ損というものである。余談だが、ファミマの店内放送が他のファミマと同じだった。曰く「当店ではヘルメットを着用してのご入店はお断り申し上げております。」……ヘルメット着用して入っていったらファミマに入るまえに裁判所の入り口で止められるだろ!

証拠調べ

13:17、開廷。

検察官が次の8つの証拠を提出した:

14:01、休廷。

証人尋問

14:22、再開。

証人が名を名乗り、宣誓した。

そのとき、被告人がなにかを主張し始めた。あわてて通訳士が訳す。

「彼の名前はなんですか! 彼はなにを言うつもりですか!」

裁判長が証人の名前を言ってから、落ち着き払って「彼がなにを言うかは、聞いていれば明らかになります」と言った。証人は語った:

15:20、休廷。

15:40、再開。

レーダーに弾痕があったと証人が言ったとき、弁護人が異議を唱えた。「レーダーの部分の見分調書は証人自身作ったものではありません。ですから証拠とすることは認められません!」。検事は「彼もともに実況見分していたのですから問題ないでしょう」と反論する。裁判長は「裁判所としては問題ありません」と言い、証言を続けさせた。

法廷内は熱く、筆者は無駄に厚着をしてきてしまったことと、7時間近く続く審理の疲れによって段々眠くなり、意識が朦朧としてきた、しかし被告人は眉一つ動かさず、じっと座ったまま証言を聞いていた。

閉廷

16:30、弁護人と被告人の打ちあわせのため、傍聴人は外へ出された。7分ほどのちに再び入廷が許されたが、裁判長から今日の審理はここまでであること、先ほどの弁護側からの異議に対して裁判所が考慮すること、明日の予定等が述べられたのみで、16時43分ごろ、閉廷した。

素直に自分の罪を認めたこれまでの3人の被告に対し、随分と癖のある被告人が出てきたものである。

追記

2013年4月12日、東京地裁(大野勝則裁判長)は少年Bに懲役11年の判決を言い渡した。犯行当時少年でありながら今回起訴された4人の海賊の中で最も重い刑である。自業自得と言えよう。